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日本 高級住宅地立地論2

みなさんこんにちは。

 

前回に引き続き、日本の高級住宅地を地域別にみていこうと思います。

 

横浜・・・山手町

地元横浜が誇る高級住宅地なので紹介させてください(笑)。

 

青葉区美しが丘や逗子市披露山も候補に上がりましたが、やはり愛着のある山手にしました。

最寄り駅はJR根岸線石川町駅orみなとみらい線元町・中華街駅

元町商店街から急こう配の坂を上り切った先にあります。

山手町の尾根に当たる「山手町本通り」。ここに旧邸や高級住宅が集中している

江戸時代末期、1858年に日米修好通商条約が締結され、翌1859年に開港した横浜港。外国人の居留地を確保するために選ばれたのが山手の地でした。かの有名な生麦事件を受け外国人と市民と居住地を分けるという機運もあり、わざわざ不便な高台になったのでしょう。居留人からは親しみを込めて、THE BLUFF(日本語で崖の意。)と呼ばれていたそうです。

1923年の関東大震災では甚大な被害を受けたものの、第二次世界大戦中は戦禍を免れ、戦後住宅開発が進みます。その間、高層マンションの開発が相次ぎ、地元が反発。緑美しい、居留地時代より続いた街並みを守るべく、1962年「山手地区景観風致保全要綱」作成。2020年には「景観計画・都市景観協議地区」が施行され、現在の美しい景観が維持されています。

山手地区の景観計画・都市景観協議地区 横浜市 (yokohama.lg.jp)

対象区域内の住居の新設、改築に制限がある。
今では、エリスマン邸やベーリックホールといった貿易商が暮らしていた邸宅が公開されていて、無料で見学することができます。外国人墓地があるなど異国情緒高いエリアな一方、横浜女学院高校や横浜雙葉高校、フェリス女学院高校など女子高が集中しており、文教地区の一面もあります。

1930年代に建てられた旧外国人邸宅の影響もあり、近隣には洋風の住居が目立ちます。

山手本通りから南側に下る道に大規模マンションもあります。ただし、景観を阻害しない洋風な外見となっており、周辺と調和しています。

いつ行っても魅了的な山手ですが、個人的には桜が散った後のローズウィーク(5/6~21)と、クリスマスの時期に行くのがお勧めです。坂の道中にベーグルが有名なブラフベーカリーというパン屋があるので、是非立ち寄り、パン片手に山手散策を楽しんでください。BLUFF BAKERY

 

名古屋・・・覚王山(かくおうざん)

西日本に片足を入れましたね。

覚王山フルーツ大福 弁才天」で有名な覚王山は名古屋の地名なのです。

ここ覚王山、八事(やごと)が中京圏のハイソエリアとなっています。

位置は、名古屋駅から地下鉄東山線で16分、東へ7.8㎞の距離にあります。

名駅、栄といった中心地、千種のような乗換駅に一本でアクセスでき、至便な場所であることがわかります。近隣には名古屋大や南山大といった有名大学もあり、文教地区の側面もあります。

駅近くにはスイーツ専門店が密集しており、域外から人を呼び込む観光地要素もある町です。そういう意味では、山手に似てますね。

覚王山日泰寺HPより引用(施設・境内図│覚王山 日泰寺│奉安塔,本堂,普門閣,五重塔,山門,鐘楼,墓地(屋外墓地),霊堂(室内墓地),舎利殿,僧堂 (nittaiji.or.jp) 

覚王山」というなんだか強そうな地名ですが、駅の北側にある寺院「覚王山 日泰寺」がその名の由来となっています。住所名としては覚王山は存在せず、千種区山門町、法王町が対応しています。長野の善光寺下のような「門前町」と位置付けてよいでしょう。

中心地に近いエリアにもかかわらず、土地を大胆に使った邸宅が。

一方、駅に面したメインストリートには中心部の周縁部に見られる中層マンションが集積しています。ここだけ見ると高級住宅地感はあまり感じられません。通勤の便が良いので単身のサラリーマン世帯が入居してそうですね。

 

大阪・・・東豊中

関西は日本一の高級住宅地の一大集積地です。大手私鉄各社の積極的な開発、関西の財界の大富豪がこぞって郊外に別荘を建てたことにより、阪急、阪神、南海、近鉄、京阪沿線に「○○園」「○○山」というハイソエリアがいくつも生まれました。特に阪急沿線は「阪神間モダニズム」という独自の生活様式、文化が根付き、上流家庭の集まるエリアとなりました。

学園前、登美ヶ丘、帝塚山、香里園、甲東園、香櫨園と枚挙にキリがありませんが、その中でも東豊中を取り上げました。

豊中と聞くと、関西地方の比較的人口の多いベッドタウンのイメージで、あまり高級なイメージは湧かないと思います。しかし、豊中を含む北摂(ほくせつ)エリアというのは関東でいう田園都市線沿線にあたる地区で、関西では住みたい街ランキングで上位に当たるのです。

位置関係はこのようになっています。実際の最寄り駅は大阪モノレール少路駅、大阪メトロ千里中央駅、桃山台駅。梅田や新大阪、伊丹空港に一本で行くことができる好立地です。また、中国自動車道新御堂筋と道路網が充実しており、車持ち世帯にもありがたい環境です。加えて北部には自然豊かな箕面(みのお)能勢(のせ)が控えており、都心へのダイレクトアクセス、新幹線や飛行機に飛び乗れる利便性、北摂の自然の豊かさを同時に享受できる優れた住宅地なのです。

東京でこの立地を求めると、3つの要素のうち1つは捨てなければなりませんが(湾岸エリアは自然の豊かさ、多摩エリアなら新幹線や空港アクセスを諦めなけばななりません)、東豊中ならこれが可能です。日本中を旅する私にとっては、なんとも羨ましい立地です。北摂が人気エリアに選ばれるゆえんも納得です。

豊中町2丁目に豪邸が集中。1~4丁目は風致地区に指定されており、建築物の新設、改築、塗装の変更に豊中市長の許可が必要です。風致地区内の許可について 豊中市 (city.toyonaka.osaka.jp)

豊中町の全体地図です。ぽつぽつと小池が分布しているのがわかると思います。

水の利が良い丘陵地帯ということから農耕地として集落が形成。1910年に箕面有馬電気鉄道(現阪急宝塚線)開業とともに、梅田へ通勤するサラリーマンの宅地として、ため池を埋め立て開発が進みました。域内の生活道路がぐにゃぐにゃ曲がっているのは、山を切り開いて宅地を造成したからでしょう。この狭い範囲に、邸宅、ニュータウン、築年数が経過している戸建て住宅が密集しています。古くから開発された住宅地なので家屋の更新も行われており、築浅の住宅が並ぶエリアもありました。地図北東に巨大なジャンクション(千里IC)があるのが特徴的です。

こうした郊外の丘陵地の景観は、私の地元横浜市戸塚区の風景と似ており親近感を感じます。

 

芦屋・・・六麓荘(ろくろくそう)

言わずと知れた、日本一の高級住宅地です。その豪華絢爛さは他の追随を許さず、圧倒的存在感を放っています。

市街地ギリギリに迫る六甲山系の麓に位置します。

最寄り駅は、阪急甲陽線苦楽園駅orJR神戸線芦屋駅。但し、ここの住民の多くが公共交通機関を使用せず、使用人の運転する自家用車で移動します。

これぞ日本一の高級住宅地の景観。六甲山を借景に電柱のない坂道が続き、手入れが行き届いた生け垣が並び、どっしりと構える大豪邸。非常に厳しい建築協定が敷かれ、住民一人一人にまで景観を維持する強い意識が浸透しています。

 

市街地を見下ろす下り坂の眺望もまた至高です。


全国屈指の高級住宅街として名高い芦屋の中でも最上位の区画である六麓荘。

甲山の麓(ふもと)に「東洋一の住宅街」を目指して開発された経緯があります。

そのモデルは香港島の斜面に設けられた白人専用居住区。1927年という黎明期ですが、大阪の財界人が足しげく現地を訪れ調査し、傾斜地における住宅地開発を学びました。

その頃は阪急電鉄生みの親、小林一三による郊外の宅地分譲が進められていた時期でもあり、人口稠密の大阪都心から、富裕層がこぞって移住してきました。中でも六麓荘は、「金儲けではなく、住民一人一人の意志で理想の町づくりをおこなう」という建町精神をもって、今日までまちづくりを進めてきました。その為、国内でも最も厳しいといわれる建築協定が敷かれ、六甲山の自然と調和した美しい景観を維持しています。

・町内に商業施設やコンビニがない

・電柱の地下化

・街路樹を設置せず、個人で生け垣を整備しなければならない

・町内会への入会(入会費500,000円)

・建築物は1区画につき400㎡以上、一戸建てとし個人専用住宅のみ

・建ぺい率40%以下、容積率80%以下

・・・いかに厳格な縛りか分かるかと思います。商業施設が一切ないため、麓のスーパーマーケット(専らいかりという高級スーパー)まで日々の買い出しに行くほど。

しかし六麓荘全体が高齢化しており、車を持たない層の生活が困難になりつつあるという社会問題も内包しています。基本的に域内がすべて坂なので、足腰の弱い高齢居住者にとっては生活しづらいのです。その為、駅近辺の利便性の高いエリアに転居するケースが目立ち始めています。

結果区画に空き家が目立ち始め、従来通りのやり方では東洋一の高級住宅街を維持することが難しくなってきました。

その為、2007年に従来の建築協定を引き継いだ「芦屋市都市景観条例」が芦屋市によって施行され、機能を行政に移管して六麓荘の街並みを守っています。一方で町内会の存在感はいまだ強く、新築増築時には町内会へ相談、近隣住民への説明会を施工主立ち合いで行うほどです。条例と建築協定、双方の視点で「六麓荘にふさわしい住居」を選定し、未来永劫美しい景観を守っていこうというわけです。

 

JR芦屋駅から徒歩30分とアクセスは若干難しいですが、一通り神戸観光を終えたら是非とも訪れるべき場所です。あくまで住宅地なのでジロジロというわけにはいきませんが、六甲山と大阪湾を借景にした豊かな眺望を一度は見ておくべきです。

 

総括

今回、1弾と2弾に分けて日本の高級住宅街を見てきましたが、ここで取り上げることができなかったものの一覧です。

日本の高級住宅街の共通点

 

1、高台に位置している

地名をみれば一目瞭然ですが、「○○台」「○○山」「○○丘」の連続です。平地の密集市街地を避け、高台の比較的広い区画に分譲する傾向があります。また、歴史的には、高台に造設することで権力を可視化したという背景もあります(城址や大名屋敷、外交官邸など)

2、中心地近接型と郊外型の2パターンがある

前者が円山、元麻布、山手。後者が泉桂、東豊中町、六麓荘。

職住近接が可能なエリア、DID(人口集中地区)を避けた、郊外の自然豊かなエリアに大分できます。

 

3、一般の住居も混在している

海外諸国比べると、絶対的貧困層が少ない日本。その分経済格差が小さく、六麓荘以外の高級住宅街にはごく普通の戸建てや団地が分譲しています。ビバリーヒルズをはじめ、世界の高級住宅街ではゲーテッドコミニティ(英Gated Community)と呼ばれる、居住者しか出入りができない住宅地があるのですが(文字通り入り口がゲートで閉ざされている)、日本においては数区画あるのみです。高所得者もサラリーマンも分け隔てなく同じ区画に住んでいるのが日本の特徴です。

 

以上、長くなりましたがお付き合いいただきありがとうございました!