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地理をエンタメに!地域の事象や旅について語る

平和都市 広島を分解する

みなさんこんにちは。

今回は中四国地方最大の人口を誇る広島県広島市について、紐解いていきます。

今年2023年5月にG7サミットが岸田首相の地元である広島で行われたことは記憶に新しいです。昨今のウクライナ有事を踏まえた核不拡散体制の再確認し、各国の首脳が原爆死者慰霊碑に黙とうを捧げた光景はいまだに脳裏に焼き付いています。ゼレンスキー首相が突撃訪問したのは驚きでした。

原爆投下から78年経ったいまもなお全世界に平和のメッセージを送り続ける唯一の都市、正直私も知らないことがたくさんあります。是非見守るような視点で読んでいただければ幸いです。

 

広島といえばやはり原爆投下のイメージが強いです。気象条件によっては小倉(北九州)に落とされる可能性もあったようです。三方向を山に囲まれていた、狭い可住面積に多くの人が住んでいたという地理的条件もあり、甚大な被害が出ました。その状況についてここで述べることはしません。是非一度平和祈念資料館に足を運んでみてください。

全世界で唯一の原爆被爆都市ですが、基幹産業の製造業の発展、1975年の山陽新幹線延伸開業を経て順調に活力を取り戻し、今や人口118万人を数える大都市の一つとなりました。広島カープの存在、景勝地宮島(廿日市市)が近いなど観光、エンタメ面にも優れ、転勤したときに2度泣く(転勤のショックで泣く、辞令が出て本社に帰るときに離れたくなくて泣く)と話で有名です。福岡と並び、地元愛が強い都市という認識があります。

そんな広島市をもう少し紐解いてみましょう。

まず地形ですが、非常に特徴的です。

市域のほとんどが山間部で、数少ない平地に人口が集中しています。鉄道路線網の分布を見ると一目瞭然かと思います。

中心部には、河川によって運ばれる土砂が堆積して形成された三角州(デルタ)という地形がみられます。いくつもの細長い島のようなものがそれです。あまり知られていませんが、広島は「川の街」なのです。「八丁堀」「流川」と川にちなむ地名が多いのもこのためです。

一方で、河口に目を落とすと離島がいくつもあるのがわかるかと思います。典型的な瀬戸内海にみられる地形です。これらの島々には、宇品港(広島港)から容易にアクセスができます。

中心部の右隣には、広島市域内にまるでバチカン市国のように位置する自治体が確認できます。これが府中町です。実は、広島を代表する世界的企業であるマツダはここに本社と工場があります。自動車関連産業で潤沢な税収を確保している府中町広島市と合併することなく今日まで自治体運営を続けています。工場勤務者と広島中心地に通勤する世帯が多く、人口は右肩上がり。令和5年11月現在で52,721人(町HPより)と全国の町村で最大で、県内の市(江田島、三次など)を凌駕します。

近年、栄に対する名駅のように、古くからの中心市街地より再開発された市の代表駅にヒトやモノが集積する流れが全国の都市で起きています。こと広島においては未だに紙屋町、八丁堀といった中心市街が健在で、広島駅の再開発は途上です。広島駅で降りると、地元百貨店の福屋、ヨドバシ、タワーマンションが一棟あるだけで都市規模の割に小さく感じます。しかし、2025年春には広島駅ビルに路面電車の駅が乗り入れることになり、商業施設、ホテル、映画館が入居する複合施設のオープンが予定されています。

JR西日本HPより引用

広島は日本一の路面電車の街なので、路面電車が存在感を放てる駅舎は良いですね。
2年後には、紙屋町・八丁堀エリアと広島駅前の人の流れが一転するかもしれません。

 

中四国一の大都市で、国内外から観光客を集め、隣町にはあまりに有名な自動車メーカーの拠点がある広島市。しかしながら、地方における拠点性は極めて限定的なものとなっています。もっというと、中四国の他県から選んで来てもらえない都市ともいえます。それは一体何故なのでしょうか。

答えは流動の向きににあります。上記の図は、中四国地方の人の動きを矢印で示したものです。こうしてみると、広島よりも岡山に矢印が多く向かっているのがわかると思います。岡山は山陰、四国のハブとなる場所に位置すると同時に、関西との結びつきが多い都市となっています。瀬戸内海を挟んだ高松とは、快速マリンライナーの利便性のおかげで相互通勤圏の関係にあります。一方広島市は近隣の呉、東広島、岩国からヒトを集めているものの、地方全体の拠点にはなりえないというわけです。

また、直接関西に向かう流動もあれば、九州方面に矢印が向いている地域もある。

中四国は全国的に珍しく、バラバラの方向に流動の矢印が伸びている地方なのです。

そのため広島市に遊びに来ている人で他県民は少なく、ほとんどが広島県民、一部山口県岩国市民ということになります。

他県からの流入が少ないことも相まって広島県は日本一の転出超過県となっており、年間約9000人が流失しているという側面もあります(それだけ人口が多いという見方もできます)。観光するにはいいけれど遊ぶところが少ない、空港が遠く東京とのアクセスが悪いという声をニュースで聞きました。成長著しい福岡と大阪、中四国のターミナルである岡山、近隣の中規模都市(松山、福山、倉敷)に囲まれた稀有な環境で奮闘しているのが現在の広島市の姿です。

個人的には、休日は宮島や瀬戸内海の島々で非日常を味わえる広島は魅力的ですし、少し足を延ばせば鞆の浦尾道錦帯橋という観光地にアクセスできるのもいいですね。f:id:shidare225:20231119085050j:image

広島電鉄が域内の移動手段として根付いている姿は先進性があり好きです。路面電車は最初は乗車方法がわからず戸惑いますが、覚えさえすれば最も手軽に乗れる公共交通機関です。当然、環境への負荷も少ない乗り物です。

そしてなにより、「NO MORE WAR」を世界中に発信し続ける唯一の都市です。
昨今のイスラエル情勢を思うと胸が痛みます。宗教間の対立、地政学的な利害の違いは根深い執念をはらんでおり到底解決できるものではありません。しかしそれが武力行使していい理由にはなりません。平和都市として、このような無慈悲な戦争をけん制する役割を発揮してほしいと願っています。