日本最先端のコンパクトシティ 富山
皆さんこんにちは、Ge男です。
今回は、日本でもっともコンパクトシティ化が進んでいる富山県富山市について、その様子を分かりやすく解説します。
1.概要
日本が少子高齢化社会に突入してはや15年、消滅可能性自治体がニュースで取り上げられるなどもはや人口減少を意識せずにはいられないフェーズに入っています。
そのような状況の中富山市は早くからこの問題に取り組んできており、コンパクトシティ化をどこよりも早く推し進めてきました。
具体的には、LRTと呼ばれる次世代の路面電車を導入するなど公共交通の強化、そのLRT沿線を開発し居住を促進させる、中心市街地の活性化です。その結果、富山市の人口減少は県内でも緩やか、国内外が注目する都市の一つとなりました。
2.LRTの功績
LRTと聞いて、それが何かを正確にイメージできる方は少ないと思います。
手っ取り早くいうなれば、「次世代する路面電車」といったところでしょうか。路面電車は、中心市街地の輸送手段として戦前から日本の各都市で活躍していました。しかし、自家用車が普及しモータリゼーションが進行した結果、車道と干渉する路面電車は渋滞の原因とされ、1970年代までに次々と姿を消しました。一方最盛期に比べ数を減らしてはいますが、北は札幌から南は鹿児島まで今日においても路面電車が活躍しています。自動車に比べ環境負荷が少なく、Co2削減が叫ばれる21世紀の都市交通としてふさわしいと評価されているためです。
そんな路面電車をベースにより次世代向けに特化させたのがLRT「Light Rail Vehicle」です。従来より路面電車の車両に比べ床が低く設計されている、専用軌道を使用し速達化と定時運行を実現している、駅が駐車場やスーパーと一体化し、シームレスに移動でき高齢者の流動を促しているなど、路面電車を発展進化させています。1994年、仏ストラスブールで導入され、そのスマートな見た目から関心が集まりました。
日本では2023年に宇都宮ライトレールが開業し話題になりましたね。
富山においては、JR富山港線を富山地方鉄道へ譲渡、LRTに改修し2003年に新規開業させました。当初は富山駅~岩瀬浜間のみでしたが、2020年3月、富山駅構内のドッキング工事が終了し、岩瀬浜から市電(環状線、南富山駅方面)へのダイレクトアクセスが可能になりました。これにより市街地南北と中心部の移動が容易になり、商業地では富山駅周辺13地点、住宅地では市内21地点で地価が上昇しました。*1
3.LRT沿線への居住促進
富山市では、LRTを軸とした「お団子のような都市設計」を念頭にこれまで開発を進めてきました。
真ん中の図ですね。徒歩圏で移動できる範囲を「団子」、一定水準以上のサービスレベルの公共交通を「串」に見立てています。
コンパクトシティと聞くと、一か所に都市機能を集約してその他は取り壊すぐらいのイメージがありますが、そうではなく複数箇所核となる拠点が設置されます。
都心エリア、LRT駅半径500m圏内で新規住居者が定着するよう住宅購入費用や家賃を助成する制度を作り、合計2685戸がその恩恵を受けました。*2
これらを運行本数の多いLRTで結び、都市に連続性を持たせたのが富山式コンパクトシティの特徴といえます。これによる最大の利点は、都市のスプロール化を防いだことです。
「スプロール化(現象)」。聞きなれないワードだと思います。
英語で「虫食い」という意味。都市の無秩序な発展により、宅地や農地、工場が虫食いのように混在している状態を指します。もともと農業で生計を立てていた人々が住む地域にいきなり住宅や工場が建設されるわけですから、道路や上下水道といったインフラ整備が追い付かず、利害の異なる住民同士のトラブルも発生します。居住地として移り住んだのに、虫が入ってきたり排煙に悩まされたくないですものね。
富山市においても、市街地が拡大していく上でスプロール化の傾向が認められました。
定住者に気持ちよく住んでもらうために、LRT沿線に新規住宅を集中させたのはよい施策であったといえます。
4.中心市街地の活性化
日本の地方都市の多くが抱える中心市街地の空洞化問題。
高松市など健闘している事例もあります。
↑過去記事
しかし、直近だと北海道帯広市の老舗百貨店「藤丸」が閉店するなど、厳しい局面を迎えていると思わざるを得ません。
そんな中富山市は、既存の百貨店を移転&複合施設とドッキングさせることで中心部に新たな賑わいを作り出しました。
北陸地方を中心に展開している「大和(だいわ)」百貨店は、2007年に老朽化した旧店舗を取り壊し、現在の店舗に移転開業しました。「総曲輪(そうがわ)フェリオ」という複合施設と同居し、全蓋型の広場を挟んで反対側には、公共のイベント施設である「グランドプラザ」が立地。周辺商店街もアーケードを介して一体化しており、雨や雪の多い富山で天候を気にせず買い物環境が整っています。
当然、目の前にはLRTの停留所がありアクセスも抜群。先述の通り、岩瀬浜方面から乗り換えなしで行けるようになりました。自家用車の普及率が日本一ともいわれる富山において、中心市街地への賑わいが創出されているのは凄いの一言です。
マイカーからLRTに完全移行というのはなかなか難しいですが、移動する場所や方面に応じて使い分けれてもらうだけでも排気ガスの抑制、交通渋滞の解消、そして中心市街地に人が集まる環境が維持できるのではないでしょうか。
5.負の面・他都市でも応用可能か
富山市のコンパクトシティ構想は世界的に見ても注目度が高く、国内外から視察に訪れる人が後を絶たないようです。
一方結局の所、LRTを活用しているのはお年寄りばかりで、若者の多くが車を利用して郊外の「ファボーレ富山」という巨大なモールに行っているのは事実としてあります。この施設はコンパクトシティ構想が始まる以前の1998年開業で、既に富山市民の買い物の場として定着していたので、そこからの購買層の取り込みは難しい側面はあります。
そして、この富山市での施策を他都市で生かすには、
- 既存の駅間の短い市内鉄道線があるか
- 住民が施策に共感し、官民で盛り上げられるか
この2点に尽きます。
ここからは話半分に聞いてください(笑)。
宇都宮のように、ゼロから鉄道を敷設するには用地取得など莫大な時間とコストがかかりあまり真似ができる事例ではありません。
たとえば、鳥取県米子市の境港線や金沢市の北陸鉄道石川線のような、駅間の短い既存路線をLRT化するのはまだ現実味がありそうです。階段のないフラットな移動手段ができれば都市の回遊性は増します。
そしてできれば中心駅が高架化され従来より栄えているエリアまでダイレクトアクセスできればベスト。LRTではありませんが、JR新潟駅の高架化事業が佳境を迎え、2024年4月から高架下のバス乗り場の運用がスタート。これに伴い、市の南北と中心地を結ぶバス路線が複数新設されました。
そして、住民の共感を得て、官民が連動できるか。
施策を他人事ではなく自分の生活に直結すると考えてくれる市民がいないとコンパクトシティ構想は実現しません。富山市の場合、LRT沿線への転居や、総曲輪フェリオの成功に理解を示した市民が非常に多かったです。自身も実際にLRT沿線に移り住んでみたり、総曲輪(そうがわ、富山市の中心エリア)を盛り上げようと地元商店街が合同でセールをするなどの動きがあったからこその成功だと思います。
この2点が達成できれば、再現性があるでしょう。
人口減少社会において、富山市はある一定の成功例を示してくれました。
これに追随する都市が現れるかどうか、今後が楽しみです。